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小学6年の冬のことだ。
両親から私立の高田中学校を受験しないかと言われた。
 
兄が2人とも地元の市立中学に進学しており、また家が貧乏だったので、中学校は授業料のかからない市立に行くものとそれまでは思っていた。
地元の市立中学に通うなら自転車で10分もかからないが、高田中学校は三重県の県庁所在地である津市にあるので、駅まで河超え丘超え自転車で7キロ、さらに1時間に1本しかない汽車に15分乗って通うことになる。
ド田舎育ちの私からすれば高田中学は憧れでもあり、それまですごしてきた狭い田舎社会からの脱皮でもあった。
 
両親の強い勧めと期待もあり、にわかに使命感を覚えて、受験勉強を始めた。
だが受験勉強とはいっても、自宅周辺には塾などひとつもなかった。
全国私立中学受験問題集を一冊買ってもらって延々と解き続ける、これが唯一の勉強方法だった。
 
初めて目にする灘中学とかラサールなどの有名校の試験問題は、問題の意味さえもわからないほど難解なものばかりだった。
が、他に勉強方法もわからないので、友達との遊びをきっぱりと断って約2ヶ月間受験勉強に集中した。
 
受験勉強の期間が短いこともあって、受験の日が近づいても相変わらず受験問題集はほとんど解けなかった。
それまで田舎の小さい小学校ではトップの成績だったが、井の中の蛙だった私は、世間の学力レベルがはるかに高いところにあることを初めて思い知った。
 
とにかくやるだけのことはやったが、全く合格する自信はなかった。
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