トンカツ屋はクビになったが、正直ホッとした。
毎日朝4時に起きてトラックを運転し、はたまたトンカツ屋で夜中まで働くのはやはり無理があった。
今日からはトンカツ屋は行かなくてもいいんだ!
そう思うと、天国みたいなものだった。
昼2時ごろには牛乳配送の仕事から解放され、その後は昼寝をしようが、麻雀をしようが自由だ。
人間らしい生活に戻った私は、それから土日も休まず牛乳配送の仕事に精を出した。
学生の分際で月収20万以上あったので、貧しかった生活は次第に楽になっていった。
銀行に定期預金なども作ったりした。
冬になってくると、朝4時からホンダ「タクト」、つまり原付スクーターで中河原から調布まで通勤するのはつらくなってくる。
身を切るような寒さの中を、原チャリで数十分走るのはこたえる。
というわけで、中古車を買うことにした。
日産「ブルーバードU」SSSハードトップは8年落ちで10万そこそこで買えた。
真冬の通勤もこれで快適だ。
試験などでたまに大学に行く時も、私はさっそうと車で行った。
大半の大学生は電車通学で、一部のボンボンだけが車で通学していたので、私はいつのまにか友達から「ブルジョア」と呼ばれるようになった。
10万円の中古車でブルジョア(資本家階級)もないのだが、細々と暮らす貧乏学生達からは金持ちに見えたようだ。