牛乳風呂というのをご存知だろうか。
クレオパトラがその美しさを保つために牛乳風呂に入っていたというのは有名な話だ。
本当に効き目があるのかはわからないが、一度は試してみたいと思う人も多いはずだ。
さて、トラックのバイトでは牛乳風呂ならぬ「牛乳の海」によく出くわした。
牛乳のケースは、1リットルの牛乳紙パックが16本が入るが、いつも乗っていたトラックはこれを128ケース積むことができた。
スーパーを回るたびにそのケースを降ろしていくわけだが、スーパーではその中身、つまり1リットルの牛乳だけを売るので、当然ながら販売した後はケースが残る。
残ったケースは我々が納品の都度回収するわけだが、これがなかなか都合よくは回収できなかった。
牛乳の特売のあとなどは、スーパーの裏手にケースが大量にたまっているのだが、特売自体が終わっているので肝心の納品数が少ない。
降ろすケースの数が少ないので、空ケースを積もうにもコンテナにすきまがないのだ。
スーパーがケースだらけになったらそれこそ苦情が来るし、牛乳工場でもケース不足になるので、積極的な回収が奨励されていたのだが、トラックの運転手側にもケースを回収しなければならない事情があった。
それは「コンテナにすきまがあると、牛乳が倒れる」からだ。
納品した分のケースをきちんと積んで帰らないと、すきまがある分だけ牛乳ケースが倒れやすくなるのだ。
しかし、空ケースを回収したい時に限って積むケースがなかったりする。
特に特売のときなどは、納品数にくらべて持ち帰るケース自体が圧倒的に不足した。
しかたなく、コンテナがガラガラの状態で帰らなければならない。
そういうときはかなり危険だ。
急ブレーキ注意!
急発進注意!
わかってはいるのだが、ついつい荷台のことを忘れてしまい、荒い運転ををしてしまう。
そうなると、コンテナの中で牛乳がバッターーン! とばかりに倒れる。
コンテナで牛乳ケースが倒れると、運転席にも結構衝撃が伝わるものだ。
やっちまった・・・
あわててトラックを止め、コンテナを開けると、そこは牛乳風呂ならぬ「牛乳の海」だ。
紙パックの牛乳は、倒れるといとも簡単に全部破れる。
紙のパックから一気に牛乳が噴き出すのだ。
倒れ方が激しい時は、コンテナの扉を空ける前から牛乳があふれ出して、道路も牛乳の海になった。
こんなことなら最初から牛乳風呂にするべきだった・・
コンテナの床に広がる牛乳の海を掃除しながら、そう思った。